‘君が 好きです’
突然 あの人はそう言った
あの人は 優しい人
あの人は 強い人
あの人は・・・いい人
子どもだった私は なぜだか少しこわくて
あの人の手を避けてしまった
帰り道 ウィンドーに映るのは
かわいくない私の顔
ひとりぼっちのホームで
もう会えない あの人の笑顔を思い出した
手をのばせばそこにあった あの人の手の
もう知ることのできない ぬくもりが恋しい
‘君が好きです’
もう一度 あの人が言ってくれたなら
きっと小さくうなずけたのに
すべりこむ列車の窓に映るのは
泣き出しそうな私の顔
初めて抱きしめられたのは
口紅を3つも揃えたころ
彼の夢がまぶしくて ついていくのが幸せだった
彼の手が 髪をなでる
彼の手が 頬をなでる
彼の手が 背中をまわる
夏の陽射しが水辺でハネて
私の中を 彼のぬくもりが走る
渦を巻く水の中に映るのは
恋を知った 私の顔
どうして 恋は始まるのだろう
どうして 恋は終わるのだろう
優しい笑顔が 知らぬ間に手をすりぬけて
私はまたひとり 静かなホームに立っている
すべりこむ列車の窓に映るのは
泣き出しそうな私の顔
‘君が 好きです’
突然 あなたはそう言った
ただ静かに そばにいて
ただ静かに 微笑んで
ただ静かに 流れる雲を見つめる人
その肩に頭をよせて
私はなぜだか 泣いていた
今 あなたに会うために
私は 大人になったのだろう
静かな川面に映るのは
手を重ねあうふたりの顔
愛を知った 私の顔
これは、ひのりんこと日野林純子の写真集のために書き下ろした詩です。
これ。
‘10代’‘20代’‘30代’の顔を一日で撮るという無茶を要求して撮影し、出来上がった写真を見ながら書きました。
自分の詩に解説することほど無粋なことはないですが、二人称を‘あの人’‘彼’‘あなた’と書き分けているのがミソです。
この詩は、ひのりん本人に朗読してもらいました。非常にいい出来です。グッときますぜ。
写真集を買っていただいた方への特典として、別に撮った映像にかぶせてDVDにしました。
男が書く女心って、どうなんだろうね。どこまでリアルなんだろうか。
なんにせよ、ひとつのコラボレーションとして、ひのりんからはいろいろインスパイアされました。こんな機会でもなければ、女心なんて真剣に考えないかも、って言ったら怒られるか。