自分がいいシンガーかどうかには自信はないけど、歌は好きだし、自分の好きな歌を自由自在に歌えるようになりたいと、けっこう小さい時から思っては来た。
小学校の時だったか、自分の好きなように歌ってると伴奏と音程があってなくて、先生に面と向かって‘歌がヘタ’だと言われた時はヘコんだなあ。けっこうトラウマになってて、大きい声で歌えなくなったりもした。バンドを始めてからも、このトラウマから脱するのにはけっこう時間がかかったのよ。
はじめてボイストレーニングを受けた時に「いい声だ」と言われ、「声量もあるし、努力すればいいシンガーになれるよ」と言われた時は、大げさではなく、涙が出るほど嬉しかった。
僕は全然努力家ではないけど、何かを教わることはとても好きだし、歌も、(技術的なことを)遅く習い始めたからこそ(27才のときだったかな)、出来なかったことを少しずつクリアしていけるのは、とても幸せだと感じてる。特に音域が広がったのがね、昔歌えなかった歌が歌えるようになって、とても嬉しい。
できることが増えてきたからこそ、‘できたことができなくなる’ことは、とても恐ろしい。
ちょうど一年前、あるライブイベントがあって、例によって僕が主催で内容は盛りだくさん、しかも、スケジュールがとても厳しく、ライブ直前の一週間は、まともに寝ることも食事をとることも、ましてやトレーニングなどもできなかった。
前日も徹夜で、体調はボロボロ。
初めてステージ上で‘体も動かず、声も出ない’という恐怖を味わった。自分で自分を支えられなかった。文字通りの屈辱。いかにコンディション作りが大事かを思い知った。
その屈辱を晴らすため、数ヶ月後にはワンマンライブを敢行。約3時間、25曲を休みなく歌いきってやった。‘オレはまだやれるんだ’ということを自分に証明するために。技術が未熟な以上、カラダを張るしかないからね。
僕はけしていいシンガーではない。なぜなら、本当に素晴らしいシンガーを何人も目の前で見てきてるから。そういう素晴らしいシンガーはみんな、才能がある上にとてつもない努力をしているのを知っている。だから僕も、そういう人達と共演した時にせめて少しはいいところを見せられるよう、今でもボイストレーニングは続けている(というか、やめるのがこわい)。
一方でね、せっかくとてもいいシンガーだったのに、タバコや不摂生のためにまるで声が出せなくなった人達も何人も見てる。悲しいことに、失った声は二度と戻らないんだな。
結局は自分との戦い。素晴らしい人たちと出会った時に、しっかりと自分の得意のスタイルで、胸を張って一緒に何かをしたいもの、ね。