僕の音楽遍歴はけっこう理想的な進化をしていて、工場のAMラジオから流れるヒット歌謡から始まり、フォークソング、ニューミュージック、ロック、パンク、洋楽と、まあ年相応の成長を続けてきた。そして高校を卒業し、浪人の真只中だったある日、弟が友達から分厚いレコードボックスを借りてきて、僕に聞かせた。タイトルは「BEATLES BOX」。何枚組だったかは忘れたが、ビートルズの“ほぼ”全曲が年代順に並べられており、彼らの約10年の活動を、3時間あまりで体験することができた。
初期の頃のナンバーは、小さい頃に「アニメ・ザ・ビートルズ」(もちろんUHFチャンネルでやっていた再放送)でよく耳にしていたので、お!これも聞き覚えがあるぞ!、とか言いながら楽しく聴き進んだ。でも、まあどうでもいいなあ、っていう曲もけっこうある。
やがて中期にさしかかる頃から、何やら胸がざわざわし始める。どうもおかしい。こんな感じの曲は、今まで聴いたことがないぞ。このコード進行は、いったいどうなってるんだ。
そして流れてきた「A Day In The Life(アルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」収録)。ちょっと、この曲を聴いた時の衝撃は、簡単には説明できない。こんなことが許されるのか。音楽というものは、こんなことまでできるのか。
翌日、本屋でビートルズの楽譜を買ってきて、さっそくギターで弾いてみた。
僕は、高校1年の頃から曲を作り始め、ライブでも何回か披露もしたが、その日以来、とにかくそれまでの曲は一切がっさい捨てることにし、猛然と曲づくりに燃え始めた。この謎を解かなきゃ。このさい、受験勉強なんかどうだっていいや。
「人生を変えた、この1曲」っていうのはよくあるテーマだけど、僕の音楽人生は、確かに「あの日」、大きく加速度を上げた。それは決して、自分の曲にどれだけビートルズ的な要素を叩き込むか、といった技術的なことではないよ。もっと何か、「音楽に取り組む姿勢」というのを見せつけられたんだな。
“曲を作る”というのは、こんなにも面白いんだ。僕はジョンとポールから、そういうメッセージを受け取ったのです。
その後、受験の方はどうなったかは、この際、気にとめないで。