中学生くらいから自分のお小遣いでレコードを買うようになって、というか小遣いのほとんどをレコードに費やすようになって、なんだかんだでかなりたくさんのレコードがたまったけれど、その中で、おそらく一番聴いた回数が多いのがこのアルバム。
言わずと知れた大ヒット曲「異邦人」が収録された久保田早紀のデビューアルバムで、もちろんアルバムチャートでも堂々1位を獲得した名盤。
あまりに「異邦人」のインパクトが強すぎて、一発屋としてしか語られないのが口惜しいけど、このアルバムを聴くと、けして「異邦人」は‘奇跡の1曲’ではなく、純粋に久保田早紀の才能が結実した必然の曲だというのがわかる。それほど、各曲の完成度は粒揃い。
「異邦人」は最初CM曲で、テレビからは‘ちょっと 振り向いてみただけの異邦人♪’というラストのフレーズが流れるだけだったけど、シルクロードの映像と相まってインパクトは抜群。たいていの人は「何?これ誰?なんていう曲?」っていう疑問をもったようだけど、僕は速攻で「レコードが欲しい!」って決めたかな。で、ラジオで初めてフルコーラスを聴き、曲名を知った日に、シングルを購入。B面(今でいうカップリング)もいい曲で、これはもうアルバムも買うしかないでしょう。ジャケットの彼女もとても美人だし、思春期の少年にとっては、まさに謎の美女に恋した気分だったかな。
あらためて聴き直して感じるのは、とにかくすべてにおいて‘豊か’だということ。
当時では(いや、今でも)珍しい‘ファド’などの民族音楽テイストあふれる国際色豊かなメロディーに、まるでヨーロッパの小説を読んでるかのような歌詞。
そしてそういう素材に負けまいとする、萩田光雄による渾身のアレンジと、当時でもトップクラスのスタジオミュージシャンが参加した、打ち込み一切なしのプレイ。
もともと歌謡曲畑での萩田光雄氏のアレンジ(特にストリングスアレンジ)は大好きだったんだけど、「異邦人」でも聴かれるとおりたくさんの楽器がぜいたくに使われていて(繰り返すけど全部生演奏)、ヘッドフォンで聴くとぞくぞくすること請け合い。
夜に聴いたなら、間違いなく見慣れた日本を離れ、小さい頃に本や漫画で知った‘いにしえの’異国に旅することができます。
個人的なお気に入りは、歌詞の場面転換と転調がぴたりと決まる、ブラッドベリのようにセンチメンタルな「帰郷」、若草物語のような少女の初恋を描き、イントロで白夜を見事にイメージしたストリングスアレンジの美しい「白夜」、そして、おそらく女の子なら誰もが共感するであろう‘大人への瞬間’を、アコーディオンの音色にのせて描いた「ナルシス」あたり。
あ、ボサノバのリズムで悲しいファドの旋律を歌う「ギター弾きを見ませんか」も大好き。
う〜ん、やっぱりどれも名曲です。騙されたと思って聴いて下さい。
1.プロローグ…夢がたり
2.朝
3.異邦人
4.帰郷
5.ギター弾きを見ませんか
6.サラーム
7.白夜
8.夢飛行
9.幻想旅行
10.ナルシス
11.星空の少年