ポール・ニューマンのユニークさは、二枚目スターなのにヒーローっぽくないところだ。なのに、ちゃんとヒーローを演れる。
クリント・イーストウッドが、現れた瞬間、ただ立っているだけで「ヒーロー」なのに比べると、画面に現れるポール・ニューマンは、いつもたいてい「普通の人」か「人生の落伍者」か「いかがわしいけど憎めない男」だ。
若い頃の傑作
「暴力脱獄」ですでにそのスタイルは完成されてる。
ツキにも何もかも見放され、つまらない理由で刑務所にブチこまれた男、ルーク。どこからどうみてもダメ人間なのに、何かが違う。
心の中の‘汚れていない魂’が、絶望の中に光を灯す。
僕はこの映画がほんとに好きで、完全に相棒役のジョージ・ケネディーに感情移入して、ポール演じるルークのことを見てしまう。だからラストシーンがたまらなく泣ける。
ちなみに、後年の刑務所ものの傑作
「ショーシャンクの空に」にでも、いくつかオマージュされてるシーンや設定があるよね。
代表作
「明日に向かって撃て」や
「スティング」、一風変わった西部劇
「ロイ・ビーン」は、いかがわしいけど憎めない男の典型。
そして全盛期後半の代表作
「評決」が、彼のスタイルの集大成。
どこにでもいそうな(誰にでも訪れそうな)境遇で、挫折と孤独のどん底にいて、でも魂までは腐っていない男。
かつては希望に燃えた弁護士。しかしトラブルに巻き込まれ、ツキに見放された後は、アル中同然の落ちぶれた生活。
見かねた友人が、とある仕事を持ってきてくれる。
医療ミスの裁判で、普通に示談に持ち込みさえすれば万事解決。
しかし、あることがきっかけで、彼は周囲の反対を押し切り裁判に挑む決心をする。相手は超一流で勝つためにどんな手段も厭わない無敵の弁護士。
ここまでくれば、まさにヒロイックな法廷ものだけど、そうは問屋が下ろさない。
監督は社会派の巨匠シドニー・ルメット。
派手な演出など一切なく、音楽さえもほとんどなく、厳しい現実を叩き付ける。
クライマックスの最終弁論シーンも、ケレン味あるアル・パチーノの演説とは違い、ポール・ニューマンの口調は静かだ。
静かに問いかける。
正義とは?
ラストもほろ苦い。
なぜ、彼女は電話をかけるのか?
なぜ、彼は電話を取らないのか?
人は何に従って生きるべきなのか。
自分で自分の心を裏切ったとき、人はどのようになるのか。
ポール・ニューマンを含め、名優たちのリアリティーある素晴らしい演技によって静かに胸に問いかけてくる名作です。
すでに始まった裁判員制度への心の準備という意味も含め、チラッとみておくのはいかが?なんて。
あと、何気ないシーン(ピンボールで一喜一憂したり、朝からビールに生卵を落として一気飲みしたりとか)で、ポール・ニューマンのお茶目さが楽しめます。
晩年の佳作
「ノーバディーズ・フール」にも、ポール・ニューマンらしさが存分に溢れてます。地味だけど味わい深い、いい映画。