歌謡曲とは何ぞや? 定義はまあいろいろあるけど、形式論的に言えば‘プロデューサー主導によるプロフェッショナルな楽曲制作体制’で生まれたヒット曲となるわけで、大勢の人に愛される(下世話に言えば‘売れる’)ために、さまざまな知恵と情熱と戦略が1曲に込められてるわけですな。シンガーソングライターの作る曲が、ともすれば‘ひとりよがり’に陥りがちなのと対照的に、優れた歌謡曲には詞・曲・アレンジ・歌唱において、あらゆる無駄をそぎ落とした職人的ワザが垣間見えたりするのです。もちろん策に溺れ、狙いすぎて失敗した例もたくさんあるわけですが。
歌謡曲が滅び、ヒットも小粒化した今こそ、往年の名曲を分析しようじゃないか!!・・・というほど大上段に構えると大変なので、気軽にミニレビューを書き綴っていきます。
まずは、日本歌謡史最後の‘スター’沢田研二の登場。
ちなみに点数は10点満点。
1.許されない愛('72発売。最高位4位)
ザ・タイガース解散後、ソロデビュー最初のシングルは「君をのせて」という、まあ企画ものに近い優等生ソングで、これで軽い肩ならしの後、満を持してリリースしたのがこの曲。歌詞はいきなり
‘忘れられないけど 忘れようあなたを
めぐり逢う時が 二人遅すぎた
愛の炎は消し 暗い絶望だけ
胸に抱きしめて 僕は生きてゆく’
つまり、人の彼女(あるいは奥さん)を好きになっちゃたわけですね。2番では
‘帰るところのある あなたなら遠くで
僕は幸せを ひとり祈るだけ
だけど命 かけた愛なら
今すぐあなたの もとへ戻って
どこかに奪って 逃げて行きたい’
と絶叫するわけです。G.S.時代は少女マンガのような恋の歌を歌って不動のアイドル人気を獲得していたジュリーの、イメージチェンジ戦略としては完璧なんじゃないかしらん。一歩間違えば不倫のドロドロソングになるところを、あきらめさせることで純愛の一線を保ち、それでもなお‘奪ってしまいたい’と葛藤する姿で、男性ファン獲得をも視野にいれてるわけですな。歌詞もメロディーもシンプルで、余計な描写や仕掛けは一切無し。アレンジも基本はシンプルなバンドサウンドなんだけど、ブラスを全面にフィーチャーして、けっこう派手なブラスロックに仕上げてて、なかなかにワイルドでエモーショナル。ギターの16ビートカッティングも、とってもカッコよい。
なにせ30年前の音源なんで古さは否めないけど、シンプルな曲だけにちょっとリメイクするだけで、じゅうぶんかっこ良く化けさせることができると思う。ただ、これほどの激しい情熱に説得力を持たせることができる力量とキャラクターがボーカリストに必要だけど。ラストの絶叫ロングトーンは、ボーカリストなら一度は歌ってみたいですなあ。
この曲のヒットで、以後ジュリーはしばらく‘年上の女性に惹かれる青年’路線が定着。
後に西城秀樹もこのコンセプトで「ブルースカイブルー」という名曲を歌いますが、それはまた別の機会に。
ちなみに僕は、リアルタイムではこの曲の印象はまったくなくて、後にベストアルバムを聴いて知ったクチ。でもほんと、情熱と気合いの入ったいい曲だと思う。9点。